「人生会議」という言葉をご存知でしょうか?
医療の世界では数十年前から重要性が叫ばれていた、アドバンス・ケア・プランニングという米国由来の言葉を日本人になじみ深い愛称にしようと、令和30年11月30日に「人生会議」と名付けられました。
必ず、誰もに訪れる人生の最期。その時に、後悔しないために、”元気なうちから、大切なことを大切な人と話し合おう”という取り組みです。
若い方も年配の方も、知っておくと得をする情報だと思います。どうぞ最後までご覧ください。
「人生会議」って言葉は初めて聞いたわ。
何だか、ちょっと難しそうだけど・・・
心配しないで。「人生会議」を知らない人は多いのよ。
少しずつお話していきますから、一緒に考えていきましょう。
人生会議は”今をよりよく生きる”ためのきっかけとなります
人生会議って何?
人生会議の定義はいろいろある中から、今回はわかりやすく表現してみました。
人生会議とは、「もしもの時のためにあなたが望む医療やケアについて、前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取り組み」です。
大切なポイントは、「前もって考え」「繰り返し話し合い」「共有する」ことです。
元気なうちから考えて、話し合いを繰り返すことが大切なのです。
人生会議は、”大切なことを大切な人と話し合う”こと
日本では、昔から人生の最期に関する話題を「縁起でもない」と忌み嫌う文化があります。
そして、日本人は「和」を重んじる文化があり、言わなくても家族ならわかってくれているだろうと思い込んでおられる方も少なくありません。
私は長い看護師経験の中で、家族に迷惑をかけたくないという思いから、自分の本心を言えずに我慢しておられる方とも出会ってきました。
家族だからこそ、大切なことを話し合えていない。その機会がないままに最期の時が差し迫ってきてしまった、ということにならないためにも、元気な時から自分の大切にしていることを話し合うことが、後悔のない人生を送るためには大切なことなのです。
人生の最期の方のお話をするなんて、何だか怖いわ…
ただ、とっても大切な感じもする。
怖いなって思うことは、当然のことよ。
できれば、避けたいお話かもしれないわよね。
後悔のない人生を歩みたい方には、とっても大切なことなので、
なぜ、人生会議が必要なのかのお話をしましょう。
なぜ、人生会議が必要なのでしょうか
人生の最期の方では、7割の人が自分の思いを伝えられなくなります
人生の最期の方では、さまざまな病気にかかることは避けられません。どんな病気にかかるかは人ぞれぞれですが、人生の最期の方では、約7割の人が自分の思いが十分に伝えられない状況となるという報告があります。
例えば、体調不良で救急搬送され、気がついたらベッドの上でさまざまな処置を受けていて、意識がもうろうとしているとか、あるいは、認知症で自分の思いをうまく表現できないこともあります。
意識がはっきりしていない状況の中では、病気の治療やケアの選択を自分で行うことは難しくなります。
もしも、元気なうちから自分の思いをご家族等大切な人に伝えてあれば、代弁してもらえるでしょう。
ただ、自分の思いが前もって共有されていないと、ご家族等がご本人の意向を十分にわからないまま、療養場所をどこにするか、どんな治療やケアを受けるかなどの選択しなければならない状況になるのです。
ご本人もご家族も後悔が残ることがあります
病院では、ご遺族の方のお話を伺うことがあります。
私も担当した患者さんのご家族が訪ねてきてくださり、長い治療を支えてきた思いなどのお話をお伺いする中で、ご家族の後悔の気持ちを語られることが多くありました。
「遺品整理をしていたら日記を見つけた。あの時は良かれと思って必死に隠していたけれど、ずっと前から、自分はもう時間がないのではないかと疑っていたんだ・・・」
「もう一度。故郷に帰りたかった。懐かしいあのお店で家族と食事をしたかった…などと書いてある文字を見て、苦しくて仕方がない・・・。」
「どうしてあげることが良かったのだろうか。」と。
そんなご家族の苦悩を聞かせていただく中で、人生の最期に後悔しないためにはどのようにサポートしたらよいのだろうかと、私たち医療者は模索してきました。
そんなことがあるなんて… つらいね。
でも、治療やケアの選択って、私たち素人にはわからないし、お医者さんが決めてくれるんじゃないの?
そうよね。
ちーこちゃんのように、医師が決めてくれるんじゃないのと思っておられる方は意外に多いの。
ただ、最近の医療はどんどん進歩していて、いろんな治療の選択ができるようになってきたの。
インフォームド・コンセントの形も変わってきているのよ。
ご本人の意向を尊重したインフォームド・コンセントへ
今は、医療やケアの選択において、ご本人の意向が最優先されるようになってきています。
特に、人生の最終段階において、どこでどのように暮らしたいかという療養場所のこと、受けたい医療・受けたくない医療の希望はあるかなど延命治療に関することなど、ご本人の意向が尊重されます。
さまざまな医療やケアの選択肢の中から、ご本人の意向に合わせて、何を選択するのが最善かを一緒に考えていく。そのようなインフォームド・コンセントへと変化してきています。
自分が大切にしたいことをお医者さんに言ってもいいようになってきたんだね。
驚きだわ。 でも、なぜなんだろう。
それはね・・・
”あなたの人生の主人公は、あなた”
医療者は医療の専門家です。ただ、医療者は、肉体としての生物学的な一般的な判断をすることはできますが、それが、ご本人の価値観や人生計画にマッチしているかどうかはわかりません。
「最善の医療」とよくいわれますが、何を最善とするかは、人それぞれで違います。
どんな人工的な装置をつけても良いから、少しでも命の時間を長くしたい人もいらっしゃれば、一切人工的な処置は拒否して自然の成り行きに任せたい人、最後まで口から食べたい人など、何を優先したいかはご本人の価値観によって違うのです。
ご本人が大切にしていることを聞かせていただくことで、「あなたにとっての最善」を納得して選んでいただくことを今の医療では大切にしています。
終活との違い
皆さんの中には、終活はもう済ませてあるから私は大丈夫と思っておられる方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、人生会議は終活とは違います。
終活は、自分が亡くなった後の葬儀や財産分与などに関することで、生前に自分で手続きなどを決めておくことができます。
一方で、人生会議は、亡くなる前に「どんな医療やケアを望みますか」という話し合いのことです。
人生の最期の方に自分の思いが伝えられなくなった時に、あなたに変わって治療・ケアの選択をしてもらたい大切な人と、自分はどうしたいかを話し合っておくことなのです。
人生会議は、自分の大切にしている価値を気づかせてくれます
「人生会議」では、どんなことを話し合っておくとよいのでしょうか?
ここでは、浜松市版人生会議手帳に添って、ご説明したいと思います。
もしも、実際に浜松市版人生会議手帳をご覧になりたい方は、以下のURLよりダウンロードしてくださいね。https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/kourei/acp.html
大切にしていることは何かを考えてみましょう
自分の人生を振り返り、これからの人生について考えてみましょう。
例えば・・・
- 私の生きがい・楽しみ・好きなこと
- 私がこれからしたいこと
- 私が気がかりなこと
どんなことが思い浮かんだでしょうか?
もし生きられる時間が限られているとしたら、どんなことを大切にしたいですか
以下に例を挙げていますので選んでみましょう。いくつ選んでも構いません。
- 家族や友人のそばにいること
- 仕事や社会的役割が続けられること
- 身の回りのことが自分でできること
- 少しでも長く生きること
- 痛みや苦しみがないこと
- 好きなことができること
- 家族の負担にならないこと
- 望んだ場所で過ごせること など
選んだら、選んだ理由を考えてみましょう。
その理由の中に、あなたが大切にしたい価値観の種が詰まっています。
自分の思いを大切な人と共有しましょう
もしもの時に、自分の思いを代弁してくれる大切な人を選んでおきましょう
もしも…の時に「どのような治療やケアを受けたいか」などについて、あなたの気持ちを代弁してくれる”代理意思決定者”が必要となります。
もしも…の時に備えて、ご自分の意向を大切な人(代理意思決定者)に伝えておくと、治療やケアを決めるときにあなたの気持ちが尊重されます。
どなたにあなたの気持ちを代弁してもらいたいか、元気なうちから決めておくと良いでしょう。
大切な人に自分が大切にしたいことを伝えておきましょう
もしもの時に、誰に代理意思決定者になってもらいたいかを決めたら、その人にその旨を伝えておきましょう。
そして、あなたがどんな治療を受けたいか。受けたくないか。なぜそう思うのかなどについて代理意思決定者に伝えておきましょう。
伝えることによって、あなた自身も自分が大切にしていることに改めて気がついたり、見つめたりすることになります。
あなたの思いを大切な人と共有することがとても大切です。
元気なうちからの人生会議をおススメする理由
後悔のない、自分らしい人生を送るための道標となります
もしも、余命があと半年から一年だったとしたら、どうしてもやっておきたいことは何でしょうか?
例えば・・・
- 故郷に帰りたい
- 親友に会いたい
- ○○旅行に行きたい
もっともっと思い浮かぶかもしれません。
でも、私たちはついやりたいことも先延ばしにしてしまいます。
究極の時に思い浮かぶことが、あなたの本心です。後悔しない人生を送るためには、その本心を大切にしましょう。
ここで、1冊の本を紹介します。
ブロニーさんは、長年、数多くの「最期」を看取り続けたヘルパーとして、死の床で聞いた、誰にでも共有する後悔の語りを以下のように綴っています。
後悔1:自分に正直な人生を生きればよかった
後悔2:働きすぎなければよかった
後悔3:思い切って自分の気持ちを伝えればよかった
後悔4:友人と連絡をとり続ければよかった
後悔5:幸せをあきらめなければよかった
ブロニー・ウェア,仁木めぐみ訳,死ぬ瞬間の5つの後悔,新潮社,2012.
私もたくさんの方を見送らせていただきました。ここにあげられている後悔は、その看取りの中で、多くの患者さんが語った言葉です。
「病気をして初めて健康でいられることの大切さがわかった」
「できることならもう一度、やり直したい」
「後悔しない生き方をしなさいね」
「やりたいことは先延ばしにするんじゃないよ」
自分らしく、後悔のない人生を送るための、たくさんの大切なメッセージを私にくださいました。
自分の本心と向き合って、”今をどう生きるか”を考えるきっかけになります
人生の最終段階のお話をすることは、できれば避けたいことかもしれません。
でも、先人の方々が教えてくれました。
人生の最期にどう在りたいかを考えることは、”今をどう生きるか”を考えることだと。
このブログが、ひとりひとりが自らの望む人生をよりよく生きるためのきっかけとなれば幸いに思います。
厚生労働省のホームページにも、人生会議についての説明や経験談などの語りが動画となって紹介されています。合わせてご覧ください。https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html
最後までお読みいただきありがとうございました♪